1.民族文化観光の全体像を把握 観光地における現地調査の結果、「マサイ」をめぐる民族文化観光には、観光業者、土産物店、観光客に販売される装身具の販売者と制作者、リゾート・ホテルや「民族村」の経営者と従業員、ビーチを管理する行政、故郷にいる「マサイ」の家族、ローカルNGOなど、さまざまなアクターが関わっていた。その相互関係を把握し、民族文化観光の全体像を明らかにした。また、「マサイ」100人を対象に、民族、出身地域、クラン、年齢、滞在期間、滞在場所、過去の出稼ぎ経験、仕事内容、収入、学歴、英語などの外国語能力などについて聞き取り調査により明らかにした。出稼ぎは学校教育経験の有無に関係なく過半数が経験しており、学校教育を受けていない人々は観光客などとのインタラクションを通じてスワヒリ語や英語などを身につけていた。 2.民族文化観光を経済的資源として分析 ホテルなどの施設がダンス・ショーで徴収している入場料、入場者数、および「マサイ」ダンサーの給与、各人の出場回数と収入などを聞き取りと観察により明らかにした。また、土産物として製作・販売されている「マサイの装身具」について、その製作者と製作方法、また、販売者と収益についても明らかにした。これらの調査から、「マサイ」の多くは、ダンス・ショーにおいては、とても低賃金(もしくは無償)で仕事をしており、ホテル側の搾取とも呼びうる実態が見え隠れする一方、ダンス・ショーにともなって行われる装身具の販売では、実際には「マサイ」ではない民族がつくったものを購入して、それを「マサイの装身具」として観光客に販売するという「マサイ」側のしたたかな姿も明らかになった。
|