観光地モンバサにおけるサンプルの自助グループの調査を実施した。自助グループは、海岸のリゾート地一帯(モンバサ、マリンディ、ワタム)で出稼ぎ労働をしているサンプルのあいだで、90年代の終わり頃に成立していたが、実質的には機能していなかった。しかし、調査時にはグループの世代交代がはかられ、これを機能させようという動きがみられた。この背景として人びとのあいだの、観光地での仕事に経済的意味をつよく求めるという意識変化が顕著であった。ダンスショーと装身具販売による収入の一部をグループが徴収し、病気や故郷における不幸などで帰郷するものには支援を実施していた。自助グループの成立の歴史、メンバーの変遷、1ヶ月の収益と支出、過去2年、資金援助をした事例、しなかった事例を収集し、経済的基盤としての可能性を調査・分析した。 連携研究者および関係分野の研究者で研究会(アメリカ、11月)を実施し、過去の調査結果をもとに民族文化観光に関する包括的な分析を実施した。民族文化観光に従事することは、経済的にも文化的にも、重要度が増しているが、ケニアにおける観光業が、国際的なさまざまな事象、とくにテロリズムによるケニアの治安悪化などに影響されやすいこと、また主たる生業である牧畜業も、干ばつの長期化、狂牛病など風評被害に影響されやすく、両者を効率よく組み合わせることが大きな課題である。出稼ぎ先と故郷との物理的な距離(800キロ、移動には片道2日、2000シリングが必要)にくわえ、ライフスタイルの相違が大きく、ふたつの生活世界をうまく渡り歩くことは容易なことではないが、観光業の経済的重要性に対する人びとの認識が高まっているだけでなく、文化的にも、牧畜民サンブルとしてのアイデンティティを再構築するために果たす役割が今後ますます大きくなるであろうことが確認された。
|