今年度は、主に台湾に残されている中華民国外交文書・行政院文書から、(1)1950~60年代のウイグル人在外民族組織と亡命者の状況、(2)彼等に中華民国在台湾政府、および大陸の中国共産党政権がどう係わったか、についての文献資料調査を(昨年から)継続して行った。さらに1950年代に台湾(中華民国在台湾)へ政治亡命したウイグル人への聞き取り調査・口述史収集も継続した。 現在の(イスラーム組織を除いた)ウイグル人在外民族組織は、歴史を辿ると(1)1950年代にインドを経てトルコやサウジアラビアに政治亡命した中華民国官僚や資本家ら(2)1950~60年代に旧ソ連へ経済移民・政治亡命をした旧東トルキスタン共和国関係者の二派に大別できる。昨年度までは後者(2)への調査を重点的に行っていたが、今年度は(1)に関する文献調査と文献の読み込みを重点的に行った。 中華人民共和国の現政権である中国共産党とウイグル人在外組織とのイデオロギー的対立は、最近では相当知られるようになってはいるが、その対立の歴史的背景を理解する上で、1950年代の中華人民共和国成立~新彊ウイグル自治区成立時に、新彊からウイグル人が大勢、国外脱出(亡命・経済移民)していく過程を解明することは非常に重要である。 今年度の資料調査によって、中国共産党との内戦に敗れ台湾に渡った中華民国政府が、(1)ウイグル人亡命者に対して、新彊脱出後に国連へ亡命者保護を強く要請し、自らも相当な経済的援助を行っていたこと、(2)ウイグル人在外亡命者組織と中華民国政府は「反共」(反中国共産党)というイデオロギー的結束で、1960年代までは深い繋がりを維持していたこと、(3)蒋介石の死後、特に中華人民共和国が改革開放に舵を取ってからは、両者には往来が消失すること等、これまで知られていない中国国民党とウイグル人亡命者の結びつきが文献調査の結果、明らかとなった。
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