平成21年度は、まずスペインのカトリック教会がどのようにスペイン内戦の戦士や戦争の結果としての死者を顕彰しているか、先行研究に関する論点整理を行った。文献資料の読解を通じて、戦線で戦傷者と関わる看護婦を不浄なものといわんばかりの当時の聖職者の言説や、現在も続く戦争で死亡した者たちを殉教者として列福・列聖しようとする運動の展開を考察することにより、内戦を祈念するカトリック的心性の一端を明らかにすることができたと考える。加えて、マドリードでの教区教会における聖職者へのインタビューやその他内戦当時のことを知る信徒からの聞き取り調査等を実施したことにより、人々が内戦を祈念する形態は多様であるが、カトリック教会はそれを目に見える形にすることを好む傾向にあることも確認できた。 実際に記念碑に類するものを掲げている教区教会で、司祭に撮影許可を取りながらそれらを写真におさめた後、記念碑の文言や歴史的背景を確認する作業を行ってきた。この作業により、その文言にはある種のパターンというべきものがあることがわかった。今後はこの詳細な分析を行う予定である。 しかしながら、全てのマドリード市内やその近郊にある教区教会が掲げるわけではなく、内戦を相対化し勝者としての立場で事象を考え発言する連鎖からぬけようとする動向も、教会内にはみられる。また内戦をどう祈念するのかをめぐって、同じカトリック教会のなかでもとらえ方が異なることが明らかになりつつある。今後、内戦を祈念する教会の姿勢を全体像と諸相にわけて考える必要を感じている。また、この差異をどう周知していくべきかという新たな課題も生まれた。次年度の研究に活かしたいと考える。
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