研究概要 |
平成22年度は、前年度に引き続き、スペイン・カトリック教会、マドリード司教区内の教区に存在する記念碑等の調査を行った。またアルカラ・デ・エナーレス司教区、トレド司教区といったマドリード周辺のカスティーリャ地方の他都市でも単発的に記念碑の存在を確認し写真に収める作業を続行中である。 カタルーニャ地方の調査に関しては、タラゴナやトルトサなどの司教区を射程にいれて調査を再度計画しているところである。また2010年8月にはR.カルレス前バルセロナ大司教にインタビューを行うことができた。平成21年度に実施済みの聖職者とのインタビューと合わせて、カトリック教会高位聖職者の戦争犠牲者への祈念に対する考え方をまとめる重要な資料となるであろう。 記念碑撤去・維持論争のきっかけとなった「歴史の記憶法」が学校教育の面にも影響していることに関連し、スペインの学校教育における宗教的シンボルの使用問題を時系列にそって解説する研究報告を2010年9月に行った。またバルセロナで開催された国際会議"Espacio urbano, memoria y ciudadania"(2011年3月15-18日)への参加を通じてスペイン内戦・フランコ体制をめぐる記憶と表象に関する研究の最前線の情報を得るとともに、現地研究者との交流を深めることができた。 人は人間の死を様々な形で祈念する。祈念対象の選択は、実際の「血縁」関係からくるものである場合もあれば同じ団体に所属するというアイデンティティゆえの場合も、また「地縁」というより広範であり根拠があいまいになりがちな関係性からくる場合もある。実際の記念碑から詳細を再確認する作業を続けねばならない。今後、死の祈念に関する比較研究を導く上で、これまで欠如しがちだった地域による同質性という視点を考慮する必要がある。引き続き記念碑等の文面の内容を言説分析するとともに、地域による差異という分析概念を利用し、今後も研究を継続展開したいと考える。
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