平成23年度においては、カトリック教会が戦争犠牲者をいかに祈念するかという命題に対し、マドリード司教区での事例について文書館における資料収集、関係者へのインタヴュー等の作業を継続して行った。その過程でアルカラ・デ・エナーレス大学のモンテーロ教授を中心とする現地の研究グループとの意見交換を行うことができ、研究遂行上の刺激をうけた。また、メネンデス・ペラヨ国際大学(スペイン、サンタンデール市)における夏期特別講座への講演者として招きを受け、脱宗教的社会に関するスペインの事例と日本の事例との比較研究がもつ可能性を追求しはじめたことで、研究の将来的発展につながる重要なてがかりを得た。と同時に、具体的な祈念の方法として、いくつかの教区教会に現存する石板プレートを取り上げ、その文言の言説を考察した。戦争犠牲者を祈念するという行為が現代のスペイン社会ではどのように受容されているのか、石板プレートの保存状態や記念行事の有無等から考察するとともに、前年度のアンケート調査や聖職者とのインタヴュー等から得た結果をもとに論文執筆活動を行った。また「歴史的記憶法」が適用され、戦争犠牲者の遺骨が発掘されている現場を見学した経験から、スペイン内戦に関する集合的記憶の場の在り方の現状を論文にまとめた。これらの執筆活動により「たたき台」となるものを提示したことを通じて、これまで交流の機会を得ることができなかったヨーロッパをフィールドとするカトリック的・キリスト教的宗教文化や歴史を研究する研究者との意見交換の場を持つことができ、今後、ヨーロッパ域内についてのカトリシズムに関連する共同研究を行うための地盤づくりの第一歩を踏み出すことができた点が今年度における大きな収穫であったといえる。このように、史資料収集という作業はもちろんであるが、国内外の様々な研究者との意見交換を行ったことで、今後の研究の進展への手ごたえを感じている。
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