フランス領モーリシャスからイギリス領モーリシャスへの歴史上重要な転換期がモーリシャスを独立国家へ導いたが、この転換ゆえにモーリシャスから切り離されイギリス支配下に置かれアメリカ軍基地となった島とそこから強制移住させられた住民がいることを忘れてはならない。Diego Garcia島とその周辺島民を悲劇的な運命に導いたのはその地理的位置と地質学的条件:自然の環礁が保護する港で、艦船も原子力潜水艦も停泊可能。現在その島には数十名のイギリス人以外は全てアメリカ軍関係者のみが滞在する。1991年湾岸戦争時、2001年の同時多発テロの後、アフガンへの攻撃もこの島からだった。インド洋上の唯一のアメリカ軍基地の役割は大きい。かつてはフランスとイギリスの争奪戦の渦中にあったこの島がイギリス領になったことで、「寄港地」からアメリカの中心的軍事基地へとその重要度を増すことになる。 単なるアメリカ一国の帝国主義の犠牲ではなく、「脱中心化されたネットワーク状の支配装置」(アントニオ・ネグリ/マイケル・ハート『帝国-グローバル化国際秩序とマルテチュードの可能性』(2003))としての英米軍事網の犠牲となっているチャゴス難民の歴史を概観し、その戦いを共有することを目的とする。現存する帝国主義が「(至便の良い)遠隔地を利用する」ための理論と実践であるならば、それに戦いを挑む1万人にも満たないチャゴス難民はその抵抗文化の先駆者といえる。
|