西表島は世界的に希な湿潤亜熱帯気候区にあるが、森林域からサンゴ礁域まで連続した生態系を有している。この島では、農耕地等から土砂の流失が生じ、サンゴ生態系に大きな負荷をかけている。さらに近年、地球温暖化の影響として予想されていた大型台風の襲来が山地の至るところで崩落を引き起こし、生態系の劣悪化をもたらしており、対応策を緊急に講じなければならない。一方、地域の伝統文化の伝承が島で育った若者の職を求めての島外への流出、観光業に伴った多くの島外出身者の流入によって難しくなっている。 西表の(他の地域においても)、自然環境の保全と伝統文化の継承・発展には地域住民がその地域の自然環境・文化についてより知識を深め、誇りを持つことが重要である。また、住民の経済的な自立も必須である。 当研究は、植物学(ウミショウブを主としたウミクサ類の生活史の研究)と水文学(水循環を解明するための河川水量の推定および雨水の酸性度の測定と酸性雨の原因解明件研究)を行っているが、前記の目的のために同時に社会・学校教育の場で研究成果の紹介を行っている。合わせてインターネット上での成果の公表も行っている(西表庵植物園を参照)。研究成果の継続的な紹介はきわめて重要で、22年度は前年度少なかった学校教育での紹介を増やすことにしている。 さらに、当研究では、小学校の理科教科書の野生生物に関する記述が、関東・近畿に偏り、沖縄、北海道の児童に不利であることを指摘していたが、次期教科書でも同様な問題を抱えていることを認識した(概して言えば、関東・近畿の児童は記述されている野生生物のほぼ全てにアクセスできるが、沖縄、北海道の子供たちは3分の2にしかアクセスできない)。このような状況下で、今後、地域に見合った教材開発のあり方についても研究を展開する。
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