「均衡」および「均等」概念の変遷をパート労働政策との関連から整理し、法政策の実践として、「均衡処遇」をベースとした「日本型」のルールが成立した背景および成立条件を検討した。EUとは大きく異なった今日の日本の非正規労働者に対する政策方針も、歴史的に見ると、行政方針としては、同一労働同一賃金と捉えられるような均等待遇の方針を打ち出していた時期も存在していた。80年代に現在の「均衡」概念へと政策方針がシフトしたことが明らかになった。現在のパートタイム労働法では、取り扱い差別の禁止という均等待遇が規定されたのは、「職務内容が通常の労働者と同一で、人材活用の仕組みも雇用される全期間にわたって同一、契約期間も同一」といった非常に限定されたパートタイム労働者で、これらに該当しない者については、たとえ現時点で正社員と同じ仕事をしていたとしても「通常の労働者との均衡に考慮しつつ、パートタイム労働者の職務内容、成果、意欲、能力、経験を勘案し、賃金を決定することに努める」とした均衡処遇の努力義務規定が設けられている。均等を満たす上記の基準は、ジェンダーの視点から考えると、非常に女性に厳しい内容となっており、むしろパートタイム労働者の低い処遇に合理性を与えるものとなっている。 また、中小企業における非正規労働者の実態に関する調査から、中小サービス企業で基幹的職種を担う非正規労働者に対して、積極的に教育訓練投資を行い戦略化していることが明らかになった。しかし、賃金カーブが右肩上がりでないことや、一人前になった後の職業キャリアが確立されていないことが一人前に育てても辞めてしまう確率を高めている。非正社員とすることで、賃金コストを削減できたとしても、一人前に育てた後で辞めてしまえば、何度も教育訓練コストがかかることになり、長期的に見れば、費用削減となっていない可能性があることが明らかになった。
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