平成21年度は4つの作業を進めた。1. 衛生局、社会局の政策を概観するため、衛生行政、社会行政の通史、研究書とみなしうる文献を検索、国立国会図書館等で閲覧し、重要文献の収集に努め、検討を進めた。2. 社会行政のうち、手始めに職業紹介・失業対策事業の史的展開と女性の扱われ方の変化を確認するため、失業対策事業史にかんする研究書、労働行政の通史、また失業対策事業とかかわりの深い土木行政の通史を入手し、順次検討している。3. 社会局、社会行政との関連で、地方局の公営事業論の展開を整理した。社会行政は、最初の専管部署が地方局に設けられたことからも明らかなとおり、地方行政とかかわりが深く、社会行政の展開が、地方行政の認識を大きく変化させていることが確認できる。地方制度は大正末期と昭和初期の二度において、自治権拡充を目的にした大改正がなされた。この二度の改正を担当し、1931年の婦人公民権政府法案立案を担った内務官僚・挾間茂は、地方自治体の使命は公営事業体に変化したと繰り返し主張した。これは、当時、地方局官僚が注目したシドニー・ウェッブの主張でもある。ウェッブの著作は、大正期半ば以降、社会行政が展開するなかでナショナル・ミニマムの視点を提供し、大きな影響を与えるとともに、地方自治体の使命変化認識をもたらした。なお、このような変化の認識は、大正期の都市化にともなう都市計画行政の展開、大都市制度論の隆盛を背景にしていることも確認した。以上の知見は、挾間茂の地方制度論の再読、都市計画行政史や大都市制度論史の通読、1次資料である昭和初期の大都市制度調査会資料、東京市電気局の年史、『社会局関係事務概要』『公私経済緊縮運動概要』等を総合的に検討したことによる。4. 元内務官僚の回想資料として雑誌『大霞』の座談会、回想録も収集し、各行政における内務官僚の認識の検討も進めている。
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