東ティモール政府は独立後すべての政策分野におけるジェンダー平等の推進を掲げたが、国際社会が支援した灌漑システムの復旧において女性の参加を推進する措置は何も講じられなかった。女性は生産者として農業経営に多くの役割を担っていたが、灌漑復旧の事業をめぐる意思決定や灌漑の運用及び維持管理を行う水利組織への参加は限定的であり、システムの上流部で発生する技術選択、財政運営、維持管理に関する失敗に翻弄されていた。本研究は、女性は農業に不可欠な「水」という生産要素を供給する灌漑システムに大きな関心を抱いていることを確認し、女性の参画を通じて、女性のケイパビリティのみならず水利組織の経営能力をも強化されうることを示唆する。また、スキームが抱える問題の多くが行政サイドで発生していることに鑑み、システムが総体として機能するには、ドナーの援助国政府に対する、あるいは官僚の農民に対する、そして本省の地方事務所に対する「家父長的」態度が改められ、説明責任と情報の流通が改善されることが肝要であると主張する。
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