この研究は中国の計画生育政策(いわゆる「一人っ子政策」)が、生育の主体である女性たちにとってどのような意味を持ったかを、彼女たちのリプロダクティブ・ヘルス/ライツの実現という視点から、文献研究とフィールド調査によって明らかにしようとするものである。とくに本研究では、中国湖南省B村でフィールド調査を行うとともに、関連する文献を収集して、中国農村でどのように出産の近代化・医療化が進展したか、また計画生育が如何にして普及し、女性たちはそれにどのように対応したかについて分析、研究を進め、先に研究した上海都市部や遼寧省都市近郊のQ村との比較の下に分析を進めている。 平成22年度は、B村で調査を行い、これに基づいて初歩的な分析を行った。その結果、この地域において伝統的産婆から初歩的な近代医療の訓練を受けた「はだしの医者」への出産介助者の移行は1970年代に起こったが、それはジグザグの過程を経て進行し、21世紀になって急速に出産の施設化が進むとともに帝王切開が増加するなどの医療化が進展していることがわかった。また、計画生育についても1970年代から避妊が普及しだしたが、Q村ほど急速な出生率の低下は起こらず、計画生育の展開にはさまざまな軋轢が会ったことがわかった。これらの知見は、中国における出産の近代化と計画生育の展開の地域差に関するさらなる分析の必要性を感じさせるものである。 また、2011年3月には、長沙・中南大学公共政策世地方治理研究中心と「生殖健康与身体政治」学術討論会を共催し、関連する多くの有意義な報告と議論を行うことができた。
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