この研究は中国の計画生育政策(いわゆる「一人っ子政策」)が、生育の主体である女性たちにとってどのような意味を持ったかを、彼女たちのリプロダクティプ・ヘルス/ライツの実現という視点から、文献調査とフィールド調査によって明らかにしようとするものである。とくに本研究では、中国湖南省B村でフィールド調査を行うとともに、関連する文献を収集して、中国農村でどのように出産の近代化・医療かが進展したか、また計画生育が如何にして普及し、女性たちはそれにどのように対応したかについて分析、研究を進め、先に研究した上海都市部や遼寧省都市近郊のQ村との比較の下に分析しようとするものである。 平成23年度は、これまでに行ったB村でのフィールド調査によって得られたデータを分析し、また関連文献資料をさらに収集して、他地域との比較の上でB村の計画生育の展開と女性たちのリプロダクティブ・ヘルス/ライツについて考察した。 その結果、この村では、第一に計画生育の推進に熱心な村幹部がおらず、第二にプライマリ・ヘルスケアの浸透が遅れていたという条件の下で、1970年代には計画生育が普及しだしたが遼寧省Q村の場合ほどには浸透しなかった情況が明らかになった。1980年代には、計画生育はより協力に推進されるようになったが、この村では男児二人の出産はまだ多く見られ、男児がいない場合には多胎出産も見られた。このような情況は村の中では黙認されており、中央の政策通りの「第一子が男児なら子供一人、女児なら二人」が浸透するのは1990年代以降であった。このような情況をもたらした村の権力関係について、更に考察を進めている。
|