本研究プロジェクトでは、デートDVへの取り組み、とくにキャンパスでどのように取り組んでいるのかを調査することによって、日米の取り組みと暴力観を比較することが目的としている。中西はカルフォルニア大学バークレー校での調査を続行した。8月には2人ともアメリカ社会学会に参加し、理論的な研修と実態の把握に努めた。また科研の最終年度になるにあたるため、今までの調査データの整理や、それぞれの調査結果を突き合わせ、総合的な把握を行った。 その結果、(1)アメリカのキャンパスの取り組みの中心を占めるのが学生寮であること、(2)これは学生寮があるという必要に迫られているからでもあるが、またさまざまな取り組みを浸透させやすくもしていること、(3)ただ啓蒙をおこなうのではなく、学生とセンターやNPOを結ぶ「リーダー」を育成し、学生の主体性を作り出すことが必要であること、(4)プログラムは具体的であり、ただ一方的に「加害者」を批判したり、「被害者」の心がけを求めたりするものではなく、大部分の「傍観者」を暴力防止に巻き込んでいくのかに焦点があてられていること、(5)たんに暴力を防止するだけではなく、「正しい男性性」などの定義を変容させ、暴力を取り巻くメディア環境を含め、文化に多くの注意を払っていること、などの知見を得た。とくに、リーダーを育成しながら地域の学校や大学、学生寮などでの学生の自主管理を行う手法は、日本の現状では導入は現状では難しいかもしれないが、NPOなどが主体となって事業を請け負い、学生たちの間に暴力防止プログラムを根付かせることは必要であると思われた。また、DVの加害者更生や被害者支援と同時に、「傍観者」にならないプログラムの具体的実践には得るものが多いと思われる。
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