本申請研究の目的は、中世日本の禅者であり、日本思想史の中でもきわめて深い思索を展開したとされる道元の思想について以下の2点を中心に解明することである。 (1)道元の思想構造を、その独自の世界把握を軸に『正法眼蔵』等テキスト内在的に解明する。 (2)比較思想的観点から道元の思想的意義を多角的に検討し解明する。 本年は、これらの目的を果たすために、以下のような研究を実施した。 (1)については、道元の思想構造の文献的解明のために不可欠な、『正法眼蔵』本文の注解を、「現成公案」「仏性」「有時」「山水経」「諸悪莫作」「道得」巻等を中心に行った。具体的には、諸本により本文を確定し、また道元が参照したと推定される中国禅の典籍を調査研究し、古注、新注など現在まで多数知られている『正法眼蔵』注釈本を調査検討した。注釈にあたっては、用例や文体の特異性に着目した。これらの作業を踏まえて道元の思想構造について、道元の存在観、世界観、言語観、真理観、行為論、時間論、自己観の観点から検討した。特にその思想的中心軸をなす「空-縁起」に注目して体系的解明を行い、その研究成果の一部については、論文、講演等において公開した。 (2)としては、主に親鸞思想との比較を行った。親鸞の思想について主著『教行信証』を中心として他の諸著作、書簡、関連する語録を調査検討した。この検討を通じて、特に道元との比較において重要である「仏性」「空」「善悪」「身体」等の概念を解明した。その成果の一部を論文発表等で公開した。
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