研究課題
本申請研究の目的は、中世日本の禅者であり、日本思想史の中でもきわめて深い思索を展開したとされる道元の思想について、(1)道元の思想構造を、その独自の世界把握を軸に『正法眼蔵』等テキスト内在的に解明する(2)比較思想的観点から道元の思想的意義を多角的に検討し解明するという2点を目的としている。(1)に関しては、道元の行為理論、時間論、存在論の研究を基盤として、さらに、その自己観念や世界観についても検討を加え道元の思想構造を総体として解明する。(2)については、まず親鸞の『教行信証』のテキスト内在的解明を基礎的作業として行う。特に、その「空-縁起」観、善悪観、世界観、身体観を多角的に検討する。その上で両者の思想を比較し、その異同を明らかにし、アジア仏教史における両者の思想的意義を解明する。さらに、道元をより広い思想史的コンテキストの中で理解するために、従来行なわれてきた西洋の思想家との比較思想について再検討する。(1)に関する本年度の成果としてまず挙げられるのが、「道元の時間論」である。本論文においては道元の時間論を中心としてその存在理解の方法をテキスト内在的に解明した。また、ドイツで公刊された"The Three-World Dimension in Japanese Mahayana Buddhism-Ethical Aspects and the Language of Dogen"も道元の言語観、善悪観等を解明したものである。近年、欧米の思想界においては道元に対する関心が高まっており、本論文はその思想構造の哲学的解明という点において意義をもつと考えられる。(2)に関する成果としては「道元と西洋哲学-「エアアイグニス」と性起の間」がある。本書は、ハイデガーと道元の思想の共通性を「性起」という言葉を手掛かりとして検討したものである。またNHK出版から出版した『道元の思想大乗仏教の真髄を読み解く』は(1)(2)の両方に関わる著作で、特に親鸞と道元とをその善悪観、仏性観を手掛かりとして大乗仏教思想家としての共通性を解明した点に独創性がある。
2: おおむね順調に進展している
本年は、本研究課題に関するこれまでの成果の一部を盛り込んで、NHK出版より『道元の思想大乗仏教の真髄を読み解く』(284頁)を出版したほか、論文3本(うち1本は英文)を公刊し、学会発表も3本(うち2本招待講演)を行うことができた。
来年度は、本研究課題の最終年度であり、これまでの研究の総括、とりまとめをする予定である。そのために、道元の思想と親鸞との思想をより包括的な立場から、具体的にいうと大乗仏教という立場から比較検討をする予定である。本年度は「仏性」と「善悪」という観点から両者の比較を行ったが、本年は両者の思想構造の総体としての比較を試みたいと考えている。その研究成果については、論文発表、学会発表のかたちで公表したい。研究の変更は今のところ特に予定はしていない。
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大法輪
巻: 2月号 ページ: 80-83
実存思想論集18思想としての仏教
ページ: 31-56
Wallner, Hashi(Hg."Globalisierung des Denkens in Ost und West" Verlag Traugott BautzGmbH, Germany
ページ: 22-33