ソクラテス的探究における対話と真理の関係がプラトンのイデア論に深くかかわっているとの見通しの下、『国家(ポリテイア)』篇における魂の分析を行った。具体的内容としては、第4巻における正義の規定(443e-444a)を魂の内の葛藤(理知的、気概的、欲望的という三要素の間の緊張と対立)というコンテクストから読み解く作業を進め、人間の成立における正義とフィリアーとの結びつきを明らかにした。並行して、第9巻の「外なる人と内なる人」の比喩及び第10巻の「立派な人(エピエイケース)」との比較考量作業を行い、正義の核に自己との友愛があることを論証した。これらの論証はG.Vlastos(“The Individual as an Object of Love in Plato” 1981)への有効な反論となっているはずである。 本研究全体の成果として、本研究はソクラテスが知の所有者であることを否認する(「無知の自覚」)と共に自分こそが真実(alethe)を語る者であると断言する、その関係については明らかにしえたものの、そこに見出される真理の捉え方がプラトンのイデア論と通底しているという仮説を論証するまでには至らなかった。
|