研究概要 |
エンハンスメントの現状と問題点を認識するために、米国ジョージタウン大学生命倫理研究所、生命環境倫理学ドイツ情報センターを訪問し,米独における脳神経学やエンハンスメントの法的・倫理的問題の議論状況に関する情報収集を行った。米国で開催されたNeuroethics Societyに参加し、世界各国の研究状況の把握と現在の脳神経倫理における論点の整理・分析を行った。ドイツの科学研究倫理の教科書およびドイツ語圏における司法精神医学に関する教科書の翻訳作業を進めた。ニューロテクノロジーのエンハンスメント的でない使用を調査するため、ALS患者宅での「心語り」の利用状態調査(21年度)をふまえ、「心語り」の開発責任者を日立製作所に訪ね、開発の動機や経緯などを伺うとともに、「心語り」を実体験した。サイボーグ技術の福祉応用の可能性を知るため、HALの開発・レンタルを行うサイバーダインを訪問し、開発者の山海教授から、HALのメカニズムと開発の経緯・今後の福祉・医療への展開の可能性について詳しく伺った。さらにリハビリテーションへのHALの活用状態について、つくばのHALフィット及び下関の昭和病院で実態調査した。国立病院機構新潟病院におけるHALの医療への応用について連携して研究ことになった。 エンハンスメントを「願望実現型医療」というより広い医療文化論的文脈のなかで捉えなおすという提起を幾編かの論文で発表し、WEB上でも情報発信するとともに、NHK教育テレビ「サイエンスゼロ願望実現医療」に出演し、この概念の重要性について広く情報を発信する機会となった。 ドイツ刑事法上の脳神経学を巡る議論に関しての状況調査と基礎的資料の翻訳を通して,ドイツでは,特に「自由意思」の法的取扱いと「精神面における健康状態」が保護法益として設定しうるかという議論が中心に採り上げられていることが分かり、法学からのアプローチの手がかりが得られた。
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