研究課題
平成22年度前期は、バークリの自然科学に関する考え方について再検討を行った。バークリは、ロック的な「物そのもの」を否定しながら、直接的知覚の対象となるものとしての「物」、つまりロック的な「経験的対象」に関しては、その在り方と諸観念の生起との関係を、「自然法則」として捉える視点を有する。もとより、バークリにとっても、ロック同様、「経験的対象」は観念の集合体にほかならず、したがってバークリがここで言う「自然法則」は、観念間に認められる記号的規則性にほかならない。ヒュームを想起させるこうした自然法則の捉え方を解明し、それをロックの場合と比較することによって、バークリの観念説の論理のなお一層の明確化を図ることが、前期の課題となった。平成22年度後期は、バークリが物質に代えて持ち出す「神」が、どのような論理空間を持っているかを明らかにするよう試みた。ロックの観念説でも神は重要な役割を果たすが、バークリは物質ないし物そのものを拒否することと引き替えに、神に対してより重大な役割を担わせる。バークリにおけるこの神の役割に十分な検討を加え、物質否定によって空白になった論理空間がその神への役割付与によって十全に満たされたと言えるかどうかを、ここで考察した。彼が行う神の存在証明、および、それと他者存在の記号論的証明との関わりについても、併せて検討した。平成22年度のこうした一連の作業によって、かつてIan Tipton教授(前国際バークリ協会会長)から要請されていた申請者の視点からするバークリ理解の全体像に近いものを、用意することができた。なお当初執行が予定されていた「旅費」および「その他」を、研究の遂行状況に合わせてすべて「物品費」に移すことになったが、これによって所期の成果をより十全に得ることができた。
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Locke Studies
巻: 10 ページ: 179-197
The Philosophy of Richard Rorty(E.Randall et al.(eds.))(Chicago : Open Court, 2010)
ページ: 293-309