研究概要 |
本年度は、老いのQOLと「場」の関係を明らかにするために、(1)老いの風景調査、(2)QOL概念の解明、(3)老いのQOLの日中比較、という三つの研究計画を立てた。(1)については、「仲間」や「グループ」の視点からのものと「家族」や「血族」の視点からのものとがある。前者に関してはまだ資料収集の段階にあり、今後も継続していく。後者に関してはある「空き巣老人」の現状調査をした。これにより「空き巣老人」だけでなくその家族にも独自の「場」があることを突き止め、また中国政府が進める家庭介護の実態とその問題点を浮き彫りにすることができた。,これらの調査結果を踏まえて論文にした。(2)については、QOLが二面性を持ち、一般的なQOLが客観的なのに対して老いのQOLが主観的であること、そして主観的なQOLが「生きがい」と親和性を持つことを明らかにした。この論究結果もまとめて論文にした。(3)については、西南大学(中国重慶市)で開催された国際シンポジウムにおいて「老いと生命倫理」という講演をおこなった際に老いのQOLを話題にし、その日中間の異同を検討した。その結果、中国の老い文化が主観的QOLを重視していることが明らかになった。 以上から、「独居老人」が自分の生活スタイルを変えようとしない理由の一つに「場」の喪失への不安があること、「場」が主観的なQOLと密接に関係すること、QOLが「場」を規定するのではなく「場」がQOLを規定すること、そして老いの「場」が高齢者に「生き添い」を与え、そのことが結果的に老いのQOLの向上に繋がることなどが明らかになった。一般的には計量化による客観的なQOLの提示が高齢者のQOL研究の中心になるが、それだけでは不十分である。主観的なQOLと「場」の関係にも着目できれば、高齢社会対策をより効果的にすることができるだろう。
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