平成21年度の研究実施計画は「観相学の概念およびその歴史の研究」であった。時間的制約もあり、折代の観相学を確立したラヴァーター観相学の特色およびリヒテンベルクとラヴァーターの論争の問題点、ならびにゲーテと関連した、観相学の拡張の可能性を研究した。観相学は、ラヴァーターによれば、人間の外面的なものを通じて、人間の内面的なものを認識する技あるいは学であり、外的なものと内的なもの、目に見える作用と目に見えない力との関係を知り、認識することである。ラヴァーターの観相学は人間を神の似姿(像)と見なすキリスト教的背景の上に構想されている。人間の顔には、神のアルファベットの文字が記されており、この自然言語を読み解くことが観相学の研究・実践であった。ラヴァーターの観相学は、身体に刻印された自然言語を解読する記号学あるいは解釈学であった。私はこの自然言語を解読する記号学としてのラヴァーターの観相学に、観相学の拡張の可能性を探り、自然の観相学への拡張、そして特に後のアレクサンダー・フォン・フンボルトの風景観相学への方向が予想されること、そしてこの方向が風景の生態・現象学的研究のモデルとなり、新たな生態学的自然美学の一助になることを研究した。しかし、ラヴァーターの『観相学断章』全4巻の読解やリヒテンベルクやゲーテの研究に時間を要し、平成21年度は研究の準備に終わってしまい、研究発表や論文の執筆といった研究成果の公表はできなかった。平成22年度の研究の中でそれらの成果も合わせて公表する予定である。
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