平成22年度の研究実施計画は「風景の観相学的・現象学的研究」であった。しかし、研究計画全体の遅れから、実際は平成21年度の計画「観相学の概念およびその歴史の研究」を主に実行することになった。しかしそれでも、風景の観相学的研究への見通しは得ることができた。近代の観相学を確立したラヴァーター観相学の特色およびリヒテンベルクとラヴァーターの論争の問題点、ならびにゲーテと関連した、観相学の拡張の可能性、特に観相学の現代的な再評価の可能性を研究した。観相学は、ラヴァーターによれば、人間の外面的なものを通じて、人間の内面的なものを認識する技あるいは学であり、外的なものと内的なもの、目に見える作用と目に見えない力との関係を知り、認識することである。ラヴァーターの観相学は人間を神の似姿(像)と見なすキリスト教的背景の上に構想されている。人間の顔には、神のアルファベットの文字が記されており、この自然の言語を読み解くことが観相学の研究・実践であった。ラヴァーターの観相学は、身体に刻印された自然の言語を解読する記号学であった。これらのことを私は、2010年7月の日本シェリング協会の研究発表「ラヴァーターにおける顔の記号学-ラヴァーター観相学の背景とその射程-」と『徳島大学総合科学部人間社会文化研究』に掲載された論文「ラヴァーター観相学の構想とその問題点」で論じた。私がこの平成22年度の研究で特に明らかにしたことは、ラヴァーター観相学を現代的に再評価し、ラヴァーター観相学を、神学的記号学から切り離した上で、あらゆる自然物の相貌を読み取る観相学へ、そしてその自然の観相学一般へ拡大する可能性があるということである。その結果、アレクサンダー・フォン・フンボルトの植物観相学・風景観相学への方向性が見出され、そしてこの方向が風景の生態・現象学的研究のモデルとなり、新たな生態学的自然美学形成の一助となる見通しが得られた。
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