本研究の目的は、現象学的な感情論(雰囲気の理論)および生態学的知覚論を基盤にして風景の存在構造を論じることにあった。最終年度となる平成23年度の研究実施計画は、「アレクサンダー・フォン・フンボルトの自然画および風景観相学を中心とした、風景の成立根拠の生態学的・現象学的研究」であったが、この研究成果は論文「アレクサンダー・フォン・フンボルトにおける植物観相学について」としてまとめられた。この研究を通じて、私は「風景観相学」は、アレクサンダー・フォン・フンボルトでは、自然の観相学としての「植物観相学」として構想されたことを明らかにした。フンボルトの植物観相学は、ラヴァーターやリヒテンベルクに見られる、人間の顔からその心を読み取る観相学の伝統の延長上にあり、またその独自の拡張である。ラヴァーター観相学に関する研究成果の一部は、論文「ラヴァーターにおける顔の形而上学-ラヴァーター観相学の背景とその射程-」としてまとめた。フンボルトの自然の観相学は、人間に対して現れている自然を、いわば自然(大地=地球)の顔、相貌として捉えようとするものである。大地はフンボルトにとって、植物相や植生という形態を取る植物被覆として地域ごとに類型化されて現れる。風景として現れる自然の地域の特徴を、植生に即して全体的印象の下に雰囲気的に把握し、またその美を享受する視点が、風景の現象学的・生態学的研究の先駆形態であることを示すことができたのがこの研究の重要な意義である。また本研究と密接に関連した、広島大学応用倫理学プロジェクト研究センターを中心とする「和解」をテーマとした科研の基盤(B)とも関連した研究成果は、論文「自然との和解とは何を意味するのか-自然倫理学の根拠づけの試み-」となった。
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