本年度は、まず資料収集として、研究対象となる哲学者達の基本テキストに関してデータベース化されている資料CD及び、各種基本図書を購入し、研究遂行のための条件を整えた。 具体的な研究については、本年度は予定通り研究対象をマンドヴィルの思想にさだめ、特に彼の主著である『蜂の寓話』について研究した。彼自身の関心は当時のイギリスの社会問題にあり、思想家としての評価もその点に集中するが、本研究では、その前提となる彼の人間理解、とりわけ人間本性における、利己心とプライドの役割を解明しようとした。マンドヴィルは、人間の社会的な行動の動機を利己心と、他者からの評価を求める名誉欲と考え、利己心もプライドも一体のものとして扱い、それ以上の論及は行っていない。かわりに、あらゆる社会的な美徳とされるものを、この観点からいわば露悪的な解析を鋭く行っている。これを、ヒュームとの対比でみると、個別的な人間観察という点において相当の影響が見て取れる。しかし、ヒュームは明らかに、利己心とプライドを分けて考えている。この二つの感情をどのように全体の中に位置づけるかが、言い換えれば、社会的な評価を求める欲望と、私的な利益を求める欲望の関係をどのように考えるかは重要な問題であり、この二者のみならず、本研究の対象となるすべての哲学者を位置づける際に、重要な着目点となりうることを本年度における研究で見いだしたように思われる。 また、平行して人間の行為そのものの分析に関する研究も合わせて行い、その一部をトマス・リードに関する論文として発表した。これは行為における情念の枠割りについて、反ヒューム的立場を取るものとして重要である。
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