本年度は昨年度に引き続き、研究対象となる哲学者達の基本テキストに関して、各種基本図書を購入するとともに、京都大学及び中央大学所蔵の貴重書を直接調査し、研究遂行のための条件を整えた。 具体的な研究内容に関しては、昨年度の研究対象であるマンドヴィルについての研究を進めるとともに、本年度は新たな対象として、フランシス・ハチスンの思想も取り上げた。両者とも社会思想家として取り上げられることが多く、その根底となる哲学的な基盤については必ずしも十分な検討がされているとは言い難い。彼らの思想は対立的ではあるが、どちらも、人間を動かすのが情念にあるという点では共通している。ただし、マンドヴィルは利己心を強調するあまり、人間の社会的な評価を求める名誉欲(プライド)も自己愛も区別せずに取り扱う。また、ハチスンは、善意(benevolence)を人間の基本的な情念と認めることで、人間の社会性を確保しようとしたが、人間の自己中心性そのものをどう位置づけるかについては、曖昧なまま残しており、十分とは言い難い。これらの不十分性は、ヒュームの哲学との対比において明らかにできる。ヒュームは、自己愛とプライドを、ひいては欲求と評価的な情念とを区別することでマンデヴィルの欠点を取り除き、また共感と言うメカニズムを導入することで、人間の社会性と自己中心性を情念と言う枠組みの中で語ることに成功した。このように、ヒュームを中心にすることで、三者の哲学の関係性と、またヒュームの情念論の道具立ての持つ意義を明らかにできたことが、本年度における研究の成果であると言える。 また並行して、人間の行為そのものの分析に関する研究も併せて行い、その一部をトマス・リードに関する論文として発表した。
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