超越論的哲学とパースペクティヴィズム主義についての比較検討をした。 まず、論文「言語・構造・歴史―メルロ=ポンティの中期の言語哲学」においては、言語の問題を取り上げて、超越論的哲学とパースペクティヴィズム主義との相違について考察した。言語によって世界を構成し世界を一挙に照らし出そうとする超越論的哲学に対して、言語の歴史的あり方を踏まえることによって、世界の外部からではなく世界内存在としての「語る主体」が世界とどのように関わるのかという問題を、言語の歴史的な構造変化を踏まえながら考察した。その際に、メルロ=ポンティの言語論の特徴として、詩人や哲学者や芸術家の創造的な営みが強調されるが、しかしながらその根底には、個人や共同体の意図的な営みを超えた無意図的な歴史の働きが存在することを明らかにした。それによって、超越論的哲学の基礎づけ主義を批判的に検討した。 論文「意味と歴史―メルロ=ポンティの歴史哲学」においては、言語の意味と歴史の意味との異同連関について考察した。彼にとって意味とは、決して超越論的主観性によって構成されるものではなく、個人的な主観や共同的主観を超えたものであり、このような歴史的観点からしか言語の意味や歴史の意味が生成しないことを明らかにした。 以上のように、言語や意味や歴史を、超越論的哲学の問題点を指摘しながら、パースペクティヴィズム主義の観点からその内容を明らかにした。これによって、デカルトからカント、ヘーゲルに至る近代哲学の問題点を暴きながら、メルロ=ポンティにおけるパースペクティヴィズム主義の意義を際立たせることができた。
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