平成21年度には、筆者のライフワークたる「自然の現象学」という研究テーマの全体構想のなかから、その第四部「自由と非自由(行為と無為)」の第五章と第六章に相当する部分の研究を実施し、前者は論文として「実存と根底-人間的自由の非自由」という題名で『愛知県立芸術大学紀要』No. 39に掲載し、後者は「受苦する神の自由/非自由-シェリングとミシェル・アンリ」というテーマで2010年3月26日に第一回日本ミシェル・アンリ哲学会(於同志社大学)において記念講演として発表した。前者の論文は中期ハイデッガーにおける「自由」の問題を、特に彼の1936年や1941年のシェリング講義を中心に批判的に検討したもので、結果として中期ハイデッガーにおける自由/非自由の問題のみならず、それと同等以上にシェリング自身の1809年の論攷『人間的自由の本質について』における自由/非自由の問題を、中期シェリングに属する他のテクストと併せて批判的に考察するものとなった。後者の学会発表は前者の問題意識を引き継ぎ、シェリングとアンリにおける「受苦する神の自由/非自由」について考察したもので、シェリングに関してはその中期思想のみならず、後期思想をも含めて全体的に検討し、アンリに関しては特に前期思想から後期思想にかけての変化を中心に検討することとなった。両研究とも、これまでの日本や世界の哲学界ではあまり注目されることのなかった観点からのシェリング論、ハイデッガー論、アンリ論であるのみならず、筆者自身の哲学構想に適った研究でもあって、その意義や重要性は十分に認められるものと思う。
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