研究概要 |
平成22年度には、筆者のライフワークたる「自然の現象学」という研究テーマの全体構想のなかから、その第四部「自由と非自由(行為と無為)」の第七章に相当する部分の研究を実施し、これを「『有とは別様に』の思索と『放下』-シェリング、ハイデッガー、マリオン」という題名の論攷として脱稿した。この部分は、平成21年度までに完成させていた第一章~第六章と併せて、平成23年度中に『行為と無為-《自然の現象学》第三編』という書名の一冊の著作として、萌書房より公刊する予定である。もともと「自然の現象学」第四部は、「人間」や「神」等における「行為」と「無為」、あるいは「自由」と「非自由」の関係を明らかにし、究極的には「行為」や「自由」の根底に「無為」もしくは「非自由」を置くような「無為自然の現象学」として結実させる予定だったのだが、昨年度は特にその問題を、現代フランスを席捲する「有とは別様に」の思想とも絡めつつ、シェリング、ハイデッガー、マリオンのそれぞれの思索において、批判的に検討し直したわけである。なお、その一部は「Etre ou Autrement qu'etre?-シェリング、ハイデッガー、マリオン」という表題のもと、きわめて簡略された形で、10月の第63回関西哲学会において発表し、また他の一部は、「『放下』の思想-ハイデッガーとシェリング」という表題で、『愛知県立芸術大学紀要』No.40に、論文として掲載した。また12月にベルギーで催された国際アンリ学会において発表した《Differance ou present vivant? La temporalite chez Husserl, Derrida, Levinas et Henry》も、「自然の現象学」の全体構想に適うものである-これもいずれ一冊の著作中に収録される予定である。いずれも筆者自身の観点から為された研究であって、その独自性という観点からも、その現代性という観点からも、日本においてのみならず、国際的にも、意義や重要性は十分に認められるものと思われる。
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