研究課題/領域番号 |
21520021
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研究機関 | 愛知県立芸術大学 |
研究代表者 |
中 敬夫 愛知県立芸術大学, 美術学部, 准教授 (80254267)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 哲学 |
研究概要 |
昨年度には筆者は、全六部 ―― (1)感性論(空間および時間)、(2)論理(「多なき一」もしくは「一における一」)、(3)実在と表象(自然と文化)、(4)自由と非自由(行為と無為)、(5)身体論(身体の発生論的構成)、(6)他者論(自然における他者と文化的他者)――から成る「自然の現象学」という全体構想の中から、第五部に関わる四つの仕事を行った。 第一に、一昨年度に執筆した「マルブランシュの心身合一論」(未刊)に加筆し、もとは400字詰換算約250枚だったものを、約285枚のものに仕上げた。これはマルブランシュの心身合一論の問題点と可能性とについて、哲学史的観点と現代的問題状況との両面を併せて考察したものである。第二に、「メーヌ・ド・ビランのマルブランシュ批判」という、400字詰換算約62枚の新たな原稿を執筆し、約50枚に縮めたものを『愛知県立芸術大学紀要』第42号に掲載した。ビランとマルブランシュは対蹠的な立場にある思想家だが、ビランのマルブランシュ批判を仔細に検討しつつ、本稿は前稿と次稿の橋渡しの役割を果たす。第三に、「メーヌ・ド・ビランの身体構成論」(未刊)という、400字詰換算約220枚の新たな原稿を脱稿した。これは身体さえまだない原初的な状態から、有機的身体の発生や局在化を経て、客観的身体が構成されるまでの七つの発生論的段階を追ったものである。第四に、“Archeologie du corps propre. Vers une phenomenologie de l’Origine de la culture”(「身体のアルケオロジー。文化の<根源>の現象学に向けて」)という講演を行った。これは主としてアンリにおける「主観的身体」や「肉」について考察したものである。 以上はいずれも現在日本の学界レヴェルから言って、その意義や重要性は十分に認められるものと思う。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の計画通り、「メーヌ・ド・ビランのマルブランシュ批判」と「メーヌ・ド・ビランの身体構成論」という二本の論文を脱稿して、前者の一部を刊行したのみならず、平成23年度に執筆した「マルブランシュの心身合一論」に加筆する過程のなかで、この論文も、かなり充実度を増したように思う。 また京都大学で行った或る国際会議におけるフランス語での講演“Archeologie du corps propre. Vers une phenomenologie de l’Origine de la culture”(「身体のアルケオロジー。文化の<根源>の現象学に向けて」)は、今後に執筆する予定のメルロ=ポンティ論、ミシェル・アンリ論の下準備として、筆者には大きな意味を持つものとなった。本稿は、さらに拡大して、一つの大きな論文にしたいと考えている。 以上の仕事はいずれも、将来予定されている筆者の著作『身体の発生――《自然の現象学》第四編』の中に、編入されることになろう。 以上のことから、本研究はきわめて順調に進展していると言える。
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今後の研究の推進方策 |
平成25年度には筆者は、「身体論」の続きとして、まず平成24年度に或る国際会議で行った講演“Archeologie du corps propre. Vers une phenomenologie de l’Origine de la culture”(「身体のアルケオロジー。文化の<根源>の現象学に向けて」)で述べた内容を、さらにいっそう充実化して、改めて原稿化する予定である。 第二に筆者は、近世心身問題の出発点となったデカルトにおける「心身の区別」ならびに「心身合一」という問題について、いささか検討してみたいと考えている。もちろん現代におけるデカルト研究の水準を考えみるなら、このような探究は一朝一夕には完遂されえないであろうが、しかし筆者は、ミシェル・アンリの著作『身体の哲学と現象学』第五章におけるデカルト批判を踏まえつつ、改めてこの問題を検討し直してゆくことによって、独自の観点を提示できるのではないかと考えている。そしてこの研究は、筆者の将来の著作(『身体の発生――《自然の現象学》第四編』という表題となる予定)の序章の役割を果たすものとなろう。 今回の科研費による諸研究は、一応平成25年度で終了するが、その後も「自然の現象学」という全体構想の中から、その継続作業として、平成26年度もしくは平成27年度以降は、その第六部に相当する「他者」についての現象学的研究を行ってゆきたいと考えている。
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