昨年度に引き続き、高等学校公民科「倫理」及び「現代社会」と大学における哲学・倫理学教育の連携のために、カントにおける啓蒙と「公民」概念、アリストテレスにおける「弁論術」と哲学的対話との連関を研究の基盤に据えて、具体的に高等学校における教育内容の開発へ向けた研究を続けた。木阪は、2010年5月15日に大分大学で行われた日本哲学会69回大会におけるワークショップ「「高等学校の「哲学・倫理」教育で何をどのように教えるか-大学での哲学教育・教養教育と高校教育との連携に向けて」」の3人の提題者一人として、高大連携のための教材コンテンツを提供し、「思想史に問いかけてみると」というタイトルでまとめた。理性的思考が宗教的思想と接する場面を、ヨーロッパ的理性に留まらず、インド、中国の思想伝統まで視野に入れ、思想内容を自ら考えつつ理解するための教材例である。また、ミュンヘン大学に滞在中の野津と連携しながら、カントの公民概念、特に人格概念と理論的な自己の捉え方について、日本における宗教教育の問題を視野に入れつつドイツに赴いて資料等を収集した。さらに、環境倫理学的な問題関心から教養教育教材を開発し、国士舘大学人文学会におけるシンポジウムに提題した(「景観とは何か」)。重ねて「利害と信頼」というテーマで国士舘大学文学部倫理学専攻におけるシンポジウムを開催し、教養教育教材開発コンテンツを蓄積した。野津は在外研究の成果を「Der Toposbegriff der Aristotelischen Rgetorik」としてミュンヘン大学において2011年2月7日に講演発表し、同大学哲学科のブッフハイム教授との連携を深めた。また、2010年7月及び12月に開いた勉強会では、それぞれ、冷戦時代以降の韓国における哲学教育の歴史と現状(国士舘大学教授:関根明神)、また、日本の文化伝統の中でヨーロッパの伝統に連なる宗教教育を哲学的に行う実践例とその問題点等の検討が報告され(東北大学大学院准教授村山達也)、論議を深めた。
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