21年度は、パリ国立図書館にて、メルロ=ポンティ遺稿のマイクロフィルム(BNFマイクロフィルム分類番号:R1997/120235)を閲覧し、特にタイプ草稿(完成直前稿と思われるもの)と原稿のテクストとの比較を試みた。いまだ、テクストの生成にまで達するものではないが、細かい修正の他、とりわけ、末尾の一文に大きな変更(厳密には削除)が生じていることが判明した。この削除の意味は、更に『眼と精神』全体の構想に基づいて判定するべき性質のものであるため、現段階で軽々に結論づけることはできないが、芸術の問題が存在論の問題のみならず、政治的な性質の問題との連繋において考えられていたこと(これまでのところでは、両者はあまり積極的に繋がるものとは考えられてはいなかった)を伺わせる。 このことは、従来見落とされがちであったメルロ=ポンティの存在論構想において、芸術だけでなく、政治的なものの意味も共に提起しているという点で、新たな光を当てることを可能にしていると考えられる。もちろん、最終的にはその文言は削除されているため、削除されたことの意味も同時に考察されなければならない。 さらにもう一点判明したことは、原稿メモの段階で、絵画の問題が、間人間的な関係の理念の問題かつ存在への関係の理念として捉えられ、あらゆる哲学のモデルであると考えられている点である。既に、晩年の講義でもこの視点は語られているが、『眼と精神』も同様の視点に立つものとして構想されていることが判明したことは、重要であると思われる。
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