H21~H23年度にわたる研究成果をふまえて、①疑念として残された悪の克服について研究遂行した。②また、北方少数先住民族の宗教習俗や世界観を個別にその特質についてまとめて、近代化の過程で以下に悪の概念が変容したか、要点を明確化した。①悪の克服についてその要点を云えば、どの民族においても程度の多少はあれ、血の復讐観が見られ、スカンディナヴィア地域や東欧地域における血の復讐観を最も程度の強い無限連鎖として続く復讐観として定義するならば、アイヌ・オホーツク文化・エスキモー・サーミ・シベリア少数民族などは、無限連鎖とはならず、自然観による調停が見られる。②について云えば、近代化過程で世界観が変容したことはどの民族について例外がなく、そのメルクマールは生活であって、近代化以前の生活が持続していないかぎり、たとえ、宗教習俗の存続が見られるにしても、世界観は変容している。その理由は、少数民族の特徴であるシャーマニズムやアニミズムの宗教性が、世界観シンボリズムであるわけであるが、こうした宗教性は、自然に大きく依存する日常生活が変容してしまえば、大きな変容を受けるか消滅してしまうからである。ただし、こうした宗教性が変容もしくは消滅することによって、それまでは血の復讐観とのバランスが巧妙にとれて、外面的にも内面的にも平和が保たれていたにもかかわらず、近代化によってそれまでの宗教性が変容もしくは消滅したために、逆に、血の復讐観が先鋭化され、悪の解決が困難になるということが多々起こることになった事例が少なくない。③キリスト教との関連で云えば、我々自身のキリスト教観がローマンカトリックよりであるということ自体に、注意する必要がある。むしろ、キリスト教最初期のギリシア教父の世界観や倫理観にまで遡及すると、汎神論的世界観やシャーマニズム・アニミズムを包括する宗教性が散見できる。正教は大きな鍵である。
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