今年度は大きく二つの方向で研究を進めた。一つは、医療制度の政治経済的な検討を行うとともに、その倫理的な意義を明示することである。もう一つは、病に関連する哲学と倫理学の主要文献を読み進めて、次年度の出版物の刊行を準備することである。 第一の点では、論文「フーコーのディシプリン」、論文「余剰と余白の生政治」、論文「病苦、そして健康の影」に加えて、他にも数本の研究成果を発表した。ここでは特に、戦後福祉国家における医療の社会化と国家化について新たに考察しながら、功利主義や厚生経済学の理論的・倫理的なフレームの意味を明らかにしてきた。そして、この側面から、フーコーの生権力論・生政治論と功利主義全般の新たな研究方向を示唆してきた。 第二の点では、倫理学の主要文献から病に関するアーギュメントを引き出して整理した。これは、さらに検討を加えてHPに掲載するとともに、次年度の出版物の基礎資料として活かしていく。ここでは特に、古代ローマの倫理学の意義をあらためて押し出すことに重点を置いている。このことは、現在の医療倫理や生命倫理に対して豊かな視界を開くことに繋がっていくと見込んでいる。 また、過去の論文を束ねて『デカルトの哲学』(人文書院)を刊行した。ここに所収されたデカルト研究論文の多くは、デカルトの生命論と病気論にも間説するものである。
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