本研究は、現代の生老病死をめぐる諸問題に関して、哲学と倫理学の主要文献を再検討し、そこから現代の生老病死に対して新たな見地を引き出しながら、同時に従来からの主要文献の読解方式を更新することを研究目的とした。その際、現代的問題としては、病に焦点をあて、病をめぐる諸学問(医療社会学・社会福祉学・医学・生物学・生命科学)と病をめぐる諸制度(医療制度・保険制度・福祉制度)の最新の議論状況を参照して進めることとした。そして、本研究は、現代の代表的な諸文献を分析して、そこに含まれる諸テーゼと諸論点を批判的に考察しながら取り出し、病に直接・間接に言及する哲学と倫理学の主要文献と対比しながら検討を進める計画を立て、前記の具体的な問題に即して研究を進行させた。 そして、病の中でもcancer / tumorを念頭に置きながら、病の二つの概念、すなわち、日常語としての病と医療対象としての疾病が交錯する場面に着目し、そこで生ずる諸問題について理論的・倫理的に研究を進め、幾つかの論文を発表した。また、病をめぐる制度に関しては、とくに介護保険制度成立過程で問題化された高齢者の病や、精神衛生・精神保健の制度の下での精神や心の病を事例として、社会科学の諸研究も参照しながら幾つかの論文を発表した。そして、以上の研究成果を、複数の単行本として社会に向けて発表した。 本研究では、当該分野としては、多くの学術論文と単行本を研究成果として発表してきた。その幾つかのものは、社会的にも一定の評価を得ている。その一方、それらの成果は人文学・社会科学の分野に関連するものがほとんどであり、とくにoncogeneなどについての自然科学・生命科学に関連する研究成果を学術的な成果として期間内に発表するにはいたらなかった。しかし、本研究を基礎として、その分野に関連する学術的成果を近々発表する予定である。
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