研究概要 |
本研究は、生命倫理学における「安楽死・尊厳死」論とキリスト教との関連性を歴史的・社会的に解析する企てである。とりわけ、生命倫理学黎明期に活躍したキリスト教神学者ジョセフ・フレッチャー(Fletcher, Joseph, 1905-1991)の叙述に着目する。 研究初年度にあたる平成21年度になされた調査とそのは、フレッチャーの著作を網羅的に蒐集して整理し、戦前からの彼の多彩な活動と著作から全体像を把握した。 第一に、フレッチャーの死後編まれたJoseph Fletcher: memory of an EX-RADICAL(1993)のbibliographyほかに記載された文献の蒐集にあたった。なお、この作業が思いの外手間取ったため、本年度計画されていたフレッチャーの日本での活動(1963-64年)記録の蒐集は、来年度に延期された。 第二に、"Dysthanasia,""Anti-Dysthanasia"概念と日本の「尊厳死」言説との関係を分析し、両者の深い結びつきが明らかになった。成果としてGCOE死生学×生存学シンポジウム、日本生命倫理学会のワークショップでの2報告、及び共著書『メタバイオエシックスの構築へ--生命倫理を問いなおす』の公刊がなされた。 第三に、第一、第二の調査結果を共有し考究するために、日米のバイオエシックスの歴史に詳しい香川知晶氏を迎えて、立命館大学先端総合学術研究科院生公募研究会「生命倫理研究会」、立命館大学GCOE「生存学」創成拠点との共催で、「『死ぬ権利--カレン・クライラン事件と生命倫理の転回』合評会」を行った。本研究会では有馬斉氏(東京大学医学研究科GCOE特任助教)、堀田義太郎(日本学術振興会特別研究員)が指定質問を行った。また、研究代表者の担当講義と連携して、安部彰(立命館大学GCOE生存学PD)がフレッチャーのSituation Ethics『状況倫理』とその論争集の報告を行い、活発な討議が行われた。 その他、文部科学省科学研究助成金基盤研究(B)「現代社会における統制と連帯:階層と対人援助に注目して(代表:景井充)」研究会を7度共催した。
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