研究概要 |
本研究は、とりわけ、生命倫理学黎明期に活躍したキリスト教神学者、ジョセフ・フレッチャー(Fletcher, Joseph, 1905-1991)の叙述に着目して、生命倫理学における「安楽死・尊厳死」論とキリスト教との関連性を歴史的・社会的に解析する企てである。 研究2年めにあたる平成22年度は、フレッチャーの著作の網羅的な蒐集・整理をさらにすすめ、その活動の分析を継続しながら、国内外で日本の「伝統的死生観」とみなされているものと、安楽死・尊厳死運動との関連の解析を試みた。 上記の研究活動の中で、日本における安楽死・尊厳死言説において「自死」が日本の伝統的死生観の発露として、さらには日本人の美徳として語られていること、しかし、そこで取りあげられる武士道や特攻隊は、特定の階層に名誉とともに強いられた処刑や戦闘の様式であること、また、老人が自ら死地に赴く「楢山節考」の原型である棄老伝説は、本来は養老を説くものであったことを明らかにするとともに、それらがとりわけ「安楽死・尊厳死」運動において選好的にとりあげられていることを指摘した。 上記の研究の具体的な成果として、第一に、国内外における安楽死・尊厳死論における棄老伝説や武士道の語られ方を、第二に、死の自己決定における「承認」の錯綜について批判的検討を行い、その成果を国際誌International Journal of Japanese Sociologyと初学者向けテキストとして公刊した。 学問的成果の国際発信と一般市民及び初学者向けの刊行物によって、本研究の成果をより広くより「広汎な対象に公開することができたと思われる。 そのほか、本研究と関連して、2009年臓器移植法改定に関するメディア報道がまとめられ、Web上にて公開された。
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