古代哲学のアミキティア(amicitia)論がどのように中世の神学者やロマンス語文学の作者たちに受容されたか検討するために、彼ら彼女らが共通して有していた文書作成の技術(ars dictaminis)について明らかにする必要性を感じた。当該年度において、Ars dictaminisの誕生から発達、展開について調べ、そしてアベラールとエロイーズにおいてどのように受容されていたか検討し、発表した。(第62回中世哲学会シンポジウム「中世の自由学芸―― ギリシアから前期スコラの時代へ ――」提題「エロイーズ書翰に見る中世修辞学としての書翰作文術」平成25年11月10日。提題報告『中世思想研究』56号。平成26年9月、掲載予定。) また、当該研究の副産物として、現代における「偽善」についての論考をまとめることができた。つまり、カリタス(caritas)論を検討するために、カリタスを含む対神徳と古代以来の徳である枢要徳(思慮、正義、勇気、節制)との関わりを調べる中で、正義に反する悪徳として「嘘言」「偽装」「偽善」について現代的な論点から考察を行うことができた。(九州医学哲学・倫理学会『人間と医療』4号(平成26年9月)に投稿、審査中) 当該年度の研究予定としていたArs dictaminisの調査は達成できたが、その技法を使って書かれている書翰形式の文書においてアミキティアとカリタスの位置付けを明らかにするところまでは達成できなかった。今後のさらなる課題としたい。
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