本研究は、像と場のパースペクティブから、絶対者と場所という問題群を再検討することを目的とする。像と場の哲学は、フィヒテと江渡狄嶺において独自な展開を示したといいうる。そこで、こうした両哲学を基点として、そこからさまざまな哲学との連関を照出していきたい。まず、三段論法における最大の重点を小前提にみるフィヒテの視点は、ヘーゲルの推理論と鮮明なる対照をなす。この点は、フィヒテの像とヘーゲルの絶対者との異同を端的に表出するものである。また、フィヒテの像は、シェリング同一性哲学の「自然」との区別と連関をも内包する。さらに、場の哲学は、西田幾多郎の場所だけでなく、田辺元の「種」との異同という包括的な問題群にも連接していく。田辺元は、個と種の絶対否定的関係を重視し、その絶対否定的媒介を類として洞見した。本研究は、こうした問題の拡がりと連なりを視野に入れ、近代日本思想とドイツ観念論におけるいわば草の根の対話を遂行するものである。 こうした観点から、研究代表者は、ベルリン国立図書館で調査を行い、フィヒテのMagnetismusの手書き原稿のコピーを入手した。その後、ブリュッセルで行われた国際フィヒテ学会で「フィヒテとシェリング」と題した講演を行った。さらに、翻訳でも、フィヒテ全集第18巻所収の、「動物の本質解明のための諸命題」「動物磁気療法にかんする日誌」を翻訳し、刊行した。 以上の成果は、本研究の課題である像と場を軸としたフィヒテと江渡狄嶺の比較研究の礎石をなすものとして意義づけることができる。
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