本研究は、日本におけるミシェル・アンリ研究者の横のつながりを形成するための組織作りを行うとともに、将来、日本のアンリ研究を国際的な連携のもとで展開していくための礎石作りを行い、それと連動させる形で、ミシェル・アンリ哲学の現代思想における意義付けを明確化することを目指すものである。 今年度の成果としては、まず、2011年6月11日に本研究課題の一環として設立した「日本ミシェル・アンリ哲学会」の第三回研究大会を立命館大学にて開催するとともに、この学会の学会誌「ミシェル・アンリ研究」(ISSN:2285-7873)第一号を発行したことである。また、アンリ研究に関する国際的連携については、2011年7月から8月にかけて、フランスを訪れ、ミシェル・アンリ研究の第一人者の一人であるポール・オーディ氏と、彼の著書、Michel Henry:Une trajectoire philosophiqueの翻訳について打合せを行い、また、モンペリエを訪れて、「国際ミシェル・アンリ学会」元会長のローラン・バシャルド氏と情報交換を行ったことが大きな成果であった。 論文・研究発表等の成果に関しては、とりわけ、2011年12月11日に行った河合臨床哲学シンポジウムでの講演「思い出せない他者・忘れれない他者」、および、『立命館文学』第625号掲載の「現実感の現象学-ミシェル・アンリと木村敏」が大きな成果であった。前者では、ミシェル」アンリの他者論をレヴィナスの他者論と比較検討することを通して、現代哲学が描き出した他者像の多様性を浮かび上がらせることを試みた。また、後者では、世界的に著名な精神病理学者である木村敏の離人症にめぐる思想と比較しつつ、ミシェル・アンリの生の現象学が解明しようとしていた「実在性(reahte)」の意味を確認することを試みた。
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