1論文「道徳的内在主義と逸脱的事例」によって、M・スミスとR・M・ヘアの道徳的内在主義の見解を検討した。道徳的内在主義は、ある人がある行為を道徳的に正しいと判断するなら、その人はその行為をするよう動機付けられている、という主張である。この論文では、そのように判断しても、なおかつその行為をするよう動機付けられない人が存在する可能性について指摘され、スミスとヘアの議論によってはそうした人の存在を否定することはできない、と主張された。 2倫理学的思考を、工学の設計との類似性という視点から理解すべきだという考え方がある。論文「技術者倫理における設計思想について」において、そうした類似性が成立するのは、設計においてと同様に、倫理的思考においても実用主義的な方法論が重要な役割を果たしうるからであるという、これまで見逃されていた点が指摘された。 3論文「技術者倫理における道徳的ジレンマと価値概念」において、技術者が直面する道徳的ジレンマは、価値と価値の間のジレンマであること、時には非道徳的価値が道徳的価値に優ることが示された。 4論文「技術者倫理と環境問題」では、これまでの環境をめぐる議論において前提とされていた「人間を中心にするか・しないか」という枠組みの問題点が指摘され、広い意味での人間中心的観点から、持続可能な社会を念頭に置きつつ環境問題が論じられる必要性が論じられた。 5これまでの技術者倫理では、倫理学理論がただ並べられてその長所・短所が述べられている。論文「技術者倫理において倫理学理論はどのように論じられるべきか」では、倫理学理論を実用主義的に利用していくことが重要であると論じられた。 6これまでの技術者倫理では、技術者の地球的視野として、異なった文化を有する国で仕事をしていく上での技術者の心構えが強調されている。論文「技術者倫理における地球的視野の問題」では、地球的視野には、人口問題・南北問題が関わってくることが指摘された。
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