研究課題/領域番号 |
21520044
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研究機関 | 筑波大学 |
研究代表者 |
井川 義次 筑波大学, 人文社会系, 教授 (50315454)
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研究期間 (年度) |
2009-04-01 – 2014-03-31
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キーワード | 東西思想交渉 / 宋明理学 / 啓蒙主義 / 張居正 / イエズス会宣教師 / ライプニッツ / ヴォルフ / ビルフィンガー |
研究概要 |
本年度はヨーロッパに与えた宋明理学の内実を深く理解するために以下の作業を行った。 A.朱子自身による儒教古典の解釈が明確に現れる『朱子語類』のうち、『論語』雍也・泰伯篇をめぐる弟子たちの対話について検討し、これに関する訳注を作成に向けての作業を進めた。さらに宋明理学の受容の様を、中国古典の『大学』『中庸』をめぐるヨーロッパ人の翻訳・研究を分析することを通じて検証した。 B.イエズス会士ルッジェッリ、マルティによる『大学』訳文、クプレ他編『中国の哲学者孔子』、フランソワ・ノエル『中華帝国の六古典』の『大学』訳文の八條目訳文、イントルチェッタ『中庸』訳文、クプレ『中庸』訳文、ノエル『中庸』訳文の内、天命・性・道・教、誠等について分析を行った。 C.ライプニッツと関わって共著書論文を作成(2013年、近刊)。従来晩年になってからの中国哲学との関連が語られてきたライプニッツが、その研究生活のごく初期の二十歳代から、儒教、就中、朱子学の直接的な影響を得ていたことを、シュピツェル『中国文芸論』所収の易情報、ならびにマテオ・リッチの同僚であったミケーレ・ルッジェリならびに、『中国史』の著者たるマルティノ・マルティニによる複数の『大学』訳文の分析を通じて明らかにした。さらにはプロスペル・イントルチェッタによる『中庸』訳としては最初期の『中国の政治・道徳学』の分析を行い、ライプニッツ哲学形成における中国哲学の影響の可能性があることに関して検証した。ライプニッツ・ヴォルフ学派の命名者であり、両者の強い影響を受け、かつカントの批判期前の物理思想に影響を与えた、ベルンハルト・ビルフィンガーの中国哲学観を浮き彫りとすべく、その物理学書『運動物体に内在する力とそれらの測定に関する力学的証明』を邦訳作業(翻訳編2)を作成した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の予定ではブルッカーから百科全書派へといたる中国情報の流入と解釈史を追跡することを考えていたが、東西哲学史上より重要な経路があることが見えてきた。そのため次の事実に関する文献的考察である。すなわち宋明理学―イエズス会宣教師による経書訳文(宋明理学、分けても張居正の解釈による)形成史―思想形成途上の青年ライプニッツのえた中国哲学上方の実情検証―ヴォルフによる『中国の実践哲学に関する講演』の前史としての「普遍的実践哲学」への中国哲学情報流入の可能性の指摘―ライプニッツ・ヴォルフ学派の間とえの橋渡し役を務めたベルンハルト・ヴォルフィンガーの『運動物体に内在する力とそれらの測定に関する力学的証明』野翻訳作業の一層の進展から、中国哲学のカント哲学への流入の可能性・蓋然性があり得たことについて検証を行うことができた。本年度の全ての作業は、実証的に検証できる根拠を提示するものであった。
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今後の研究の推進方策 |
25年度は、これまでの研究の成果を、7月に北京で行われる故宮博物院の国際学界での講演で公表する。さらには最終的な報告書の作成を目ざす。報告書においては宋明理学による経書解釈の実像調査と、明清期イエズス会士による経書・儒教ひいては中国哲学解釈の実際のラテン語・英仏独語の文献に基づいた検証、それら諸情報に対する、ライプニッツ、ヴォルフ、ビルフィンガーの解釈・受容の後付け、とりわけビルフィンガーによる中国哲学研究書と、カントが受容したと思われるビルフィンガーの物理学書の内容との比較考察に基づく論文と、ビルフィンガー物理学書の本邦初の全訳を掲載する予定である。
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