本研究はヨーロッパに与えた宋明理学の内実を深く理解するために以下の作業を行った。 A.中国をめぐる東西交渉の実情を探るべく中国・北京地を訪れ、学会発表をすると共に資料収集した。B.朱子自身による儒教古典の解釈が明確に現れる『朱子語類』のうち、『論語』雍也・泰伯篇をめぐる弟子たちの対話について検討し、これに関する訳注作成を進めた。C.イエズス会士フランソワ・ノエル『中国哲学三論』による最初の「鬼神」論解釈を検討した。彼は祖先―子孫間の期の感応としての鬼神論を、ヨーロッパ的エーテルやアウラの視点から捉えようとしていたことが明らかとなった。この件を深く彫り込み諸注と照らし合わせた結果を論文とした。D.ライプニッツと関わって共著書論文と雑誌論文を公にした。従来晩年になってからの中国哲学との関連が語られてきたライプニッツが、その研究生活のごく初期の二十歳代から、儒教、就中、朱子学の直接的な影響を得ていたことを、シュピツェル『中国文芸論』所収の易・漢字・四書情報、ならびにマテオ・リッチの同僚であったミケーレ・ルッジェリならびに、『中国史』の著者たるマルティノ・マルティニによる複数の『大学』訳文の分析を通じて明らかにした。さらにはプロスペル・イントルチェッタによる『中庸』訳としては最初期の『中国の政治・道徳学』の分析を行い、ライプニッツ哲学形成における中国哲学の影響の可能性があることに関して検証した。E.ライプニッツ・ヴォルフ学派の命名者であり、両者の強い影響を受け、かつカントの批判期前の物理思想に影響を与えた、ベルンハルト・ビルフィンガーの中国哲学観を浮き彫りとすべく、その物理学書『運動物体に内在する力とそれらの測定に関する力学的証明』を邦訳し、かつカント思想への影響の可能性について考察する論文を公とした。
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