本申請研究の二年目に当たる本年度は、本研究の基礎作業である『孔子三朝記』の訳注のための長編作りを中心として研究を進めるとともに、他文献との重複文の分析等を通じて、『孔子三朝記』の資料的性格について初歩的な解析を行った。訳注のための長編作りについては、『孔子三朝記』七篇全体についてその作業をほぼ終えたところである。『孔子三朝記』の資料的性格については、まず、他の文献に見える哀公孔子問答の分析を通じて、この資料の哀公孔子問答としての特異性を示すとともに、『大戴礼記』哀公問五義、哀公問於孔子、『礼記』儒行三篇を『漢書』芸文志所載の『孔子三朝(記)』の全体または一部とする武内義雄氏の説が成立しがたいことを明らかにした。さらに、『孔子三朝記』の各篇相互の類似句等の表現上の共通点を指摘し、この資料が一体のものであり、同一の編者によって比較的短時間に編まれた可能性が高いことを示した。その編者については特定するに至らなかったが、文章の形式や思想内容から、いわゆる思孟学派とは異なる学統に属することを明らかにした。その編纂時期については、従来の研究においては秦漢期の成立が推定されていたが、他文献との重複文の分析から『春秋左氏伝』や『筍子』に先行することを示し、この資料が先秦文献であることを明らかにした。さらに、従来の研究においては、この資料(特に千乗篇)と『周礼』との関係が想定されていたが、措辞の面よりすれば『周礼』よりはむしろ『礼記』王制と共通点が多いことを指摘した。
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