『孔子三朝記』に対する昨年度の分析が、他文献との重複や、各篇簡における表現の重複の分析といった、文献の形式面に重点を置いた分析であったのに対し、本年度では、対話の構成や思想内容に踏み込んだ形での分析を行った。 対話の構成からは、現存の『孔子三朝記』が二重の意味での寄せ集め的性格を持つこと、すなわち、原資料となるものを寄せ集めて文章が構成されているという意味でのそれと、原本が一度大きな攪乱を受けて、それが再び寄せ集められて現在の形になっているという意味での寄せ集め的性格を持つことを明らかにした。特に、前者については、千乗篇においで「四佐」、すなわち「司徒」「司馬」「司寇」「司空」について語る部分の原資料の形を推定し、また、後者においては、従来指摘されなかった部分での錯簡の存在を明らかにした。 思想内容においては、まず、天地人の三才を並列する部分に有韻の表現が集中することを示して、これが黄老文献に基づくものであろうことを指摘するとともに、黄老思想からの影響は、天地の恒常に人も従うべきであるとする部分に限られることを明らかにした。さらに、堯舜の時代を含む古史への関心、唐虞の時の伯夷への言及、暦や取人の法に対する強い関心に、その思想的特徴があることを明らかにし、特にその政治思想において、いわゆる思孟学派との距離が大きいことを示した。また、これらの思想的特徴が先秦文献の中では比較的孤立したものであるが、『尚書』堯典とは大きく重複していることを指摘した。 また、本申請研究の基礎作業である『孔子三朝記』の訳注作業については、その作業をほぼ完了した。なお、そこでの各種注釈の彙集作業はこれまでで最も完備したものである。
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