20世紀初頭に各国の中央アジア探検隊がもたらした多くの文書断片は、文献考証研究の進化や新知見によって、1世紀を経た現在も新たな成果をもたらしている。しかしさまざまな理由から、その前段階である文献整理の遅れている分野もある。その1つが、フィンランドのマンネルヘイム・コレクション漢語文献である。 このコレクションは2千点と言われているが、いまだ写真等の資料は公開されていない。また、どのような内容のものかもほとんど発表されていない。そこで報告者は、一昨年の9月に引き続き、昨年の7月にヘルシンキでコレクションの調査・撮影を行った。帰国後、同定作業を完了し、そのデータを、コレクション所蔵のヘルシンキ国立図書館と、長年コレクションの整理・研究を続けてこられ、この調査にも協力していただいたヘルシンキ大学、元教授Dr.Harry HalenとDr.Volker Rybatzkiに送った。またコレクションに含まれる重要な断片の一部については雑誌で発表した。 次に、昨年9月にベルリンにおもむき、ドイツ所蔵のトルファン・コレクションを調査した。ここでは、トルファン研究所のDr.S.Raschmannの協力のもとに、主として漢訳仏典版本断片で、Web上では細部の不明なものを選んで調査した。またトルファンからは、中国北部の大蔵経版本とは字体や1行字数の異なる断片も発見されている。そこで、宮内庁書寮部所蔵の中国江南地方で開版された大蔵経との比較調査も行った。漢語版本仏典断片目録作成にあたっては、これらの調査成果を反映させるつもりである。
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