本年度の成果として、まずはワット・ラジャシッダラム寺院所蔵のパンニャーサジャータカ写本(いわゆる後半部)の分析を行ったことが挙げられる。この写本に関して7月に名古屋に滞在していたジャクリーン・フィリオザ極東学院名誉研究員の協力を得つつ、内容分析を行ったところ、もう一本の田辺和子博士将来本では欠落している部分がこの写本には現存しており、貴重な資料であることが判明した。 8月には、ラジャシッダラム寺院の壁画モチーフと、タイの仏伝『パタマ・サンボーディ』等の読解に基づく研究発表をチュラロンコン大学主催の国際学会'Buddhist Narrative in Asia and Beyond'にて行い、同時にラジャシッダラム寺院およびスパンブリ市のいくつかの寺院で寺院壁画の調査を行った。 12月にはこの学会発表で扱ったラジャシッダラム寺院の壁画と共通する題材を持つオックスフォード大学所蔵写本の調査のためイギリスに渡航した。この写本は挿絵面の重要性のみならず、『仏頂尊勝陀羅尼経』のパーリ語版を含むなど、タイ仏教のこれまで研究が及んでいない部分に光を当てる大変貴重な研究資料であるため、現地のアップルトン英国アカデミー研究員、ショウオックスフォード大講師と共同で今後この写本の研究に従事することとした。 2月、3月はアルバイト学生を雇い、集中的にパンニャーサ・ジャータカ写本の転写および読解作業に従事した。内容分析を進め、次年度には解読研究に入る予定である。
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