主要な研究対象であるダルマキールティ著『量評釈』とタルマリンチェン著『同論の釈論-解脱道作明』のうち、第2章「量の成立」の、第190偈までとそれに対する註釈(ラサ版238b-254b)はすでに翻訳研究していたが、本年度はその部分を再度研究するとともに、最後の第285偈までの残りの部分(ラサ版254b-306a)を翻訳研究した。また、インドとチベットでの仏教論理学・認識論の歴史を研究し、論文にまとめた。それら両者の成果をまとめて、『チベット仏教 論理学・認識論の研究I』として公表した。 『量評釈』第1章「自己のための比量(推理)」については、冒頭から第15偈までの部分のタルマリンチェン著『同釈論・解脱道作明』を翻訳し、関係するインド、チベットの註釈文献により訳註を付けた。これは、「タルマリンチェン著『量評釈の釈論・解脱道作明Thar lam gsal byed』第1章「自己のための比量」の和訳研究(1)」として、発表した。 補助研究として、大乗仏教圏全体で重要視され、多くの注釈書が著され、チベットでの僧俗を問わず広く読まれている『金剛般若経』について、17-18世紀のゲルク派の高名な学僧チョネ・タクパシェードゥプ著の『註釈』全体を翻訳研究した。従来、『金剛般若経』にはチベット撰述の注釈書は存在自体が報告されていなかったが、本著は中観帰謬論証派の立場から注釈し、ゲルク派の学問的特徴をも示しているという点で他に類例の無い典籍である。この5月に公刊される予定である。
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