研究概要 |
主要な研究対象であるダルマキールティ著『量評釈』とタルマリンチェン著『同釈論・解脱道作明』のうち、すでに第3章「現量(直接知覚)」の翻訳を行い、そのうち約4割ほどを「タルマリンチェン著『量評釈の釈論・解脱道作明Thar lam gsal byed』第3章「現量」の和訳研究(1)」(『成田山仏教研究所紀要』30,2007)、同(2)(同上31,2008)、同(3)(同上32,2009)として発表していたが、本年度は残りの部分も翻訳研究し、さらに全体を見直して、第3章全体を『チベット仏教論理学・認識論の研究II』として公表した。これにより、経量部と唯識派における認識論、自証知(知識の自己認識性)の問題が詳細に検討できた。 『量評釈』第1章「自己のための比量(推理)」については、昨年度の続きとして第16偈から第39偈までのタルマリンチェン著『同釈論・解脱道作明』を翻訳し、関係するインド、チベットの註釈文献により訳註を付けた。これは、認識されるべき条件が揃っているとき認識されないなら、それが存在しないことを断定させるものとして、非認識を主要な認識基準の一つとして位置づけた重要な論述であるが、世界的にも十分な研究がなされていない。その部分を「タルマリンチェン著『量評釈の釈論・解脱道作明Thar lam gsal byed』第1章「自己のための比量」の和訳研究(2)」として、発表した。 補助研究としては、『金剛般若経』(大乗仏教圏全体で重要視され、多くの注釈書が著され、チベットでの僧俗を問わず広く読まれている)について、17-18世紀のゲルク派の高名な学僧チョネ・タクパシェードゥプ著の『註釈』全体を翻訳研究していたものが公刊できた。
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