私の研究の目的は、チベット訳『入胎経』の厳密な校訂本と英訳を準備することである。この経典には胎児の受胎と胎内での成長のプロセスが述べられており、その内容はインド医学文献と関係している。しかしながら、インド医学文献が月単位で成長の過程を述べるのに対して、本経典は週毎の成長を述べている。本経典はまた、チベット胎生学研究の重要な典拠となっている二文献のうちの一つである。 本経典のチベット語異訳からの英訳が、最近のある学位論文に収録されているが、それには十分な注記がされていない。私が校訂・翻訳しているチベット訳には、先行する英訳はなく、また厳密な校訂本は本経典の何れのチベット訳に対しても作成されていない。それ故、私の研究はこの重要な経典に対する研究を進める上での、信頼できる文献学的基礎を準備するものである。 2009年度に、私は校訂本の第3稿を仕上げ、それへの序文を35ページ(約半分)執筆するとともに、本文献の暫定的な系統図を作成した。校訂本と系統図の原稿は、いまPeter Skilling博士による校閲中である。Skilling博士はチベット大蔵経カンギュル校訂の権威であり、私の草稿に対するコメントと訂正を行うことに同意している。 私はさらに、私の英訳の第3稿を仕上げ、チベット語を母語とするYangga氏による校訂を受けた。同氏によるコメントは、既に私の草稿に反映されている。 また、私は仏教の教理文献の輪廻転生のプロセスの説明中にみられる本経典の引用に関する27ページの論文を執筆し、投稿済みである。本論文において、私は、本経典の異本中のどれがそれぞれの引用の典拠となっているかを確認した。私の結論はさらに、異本間での借用が一部あった可能性も示唆している。この論文は、Harvard Oriental Seriesの一巻として刊行される予定のLambert Schmithausen教授の記念論文集に掲載されることが決定している。 上述の通り、私の研究は本補助金を申請した際に私が提出した計画通りに進行している。
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