研究概要 |
これまでの研究によって,日本唯識の転換点は蔵俊と貞慶であったという確信をもって科研の申請をしたのであるが,こうした観点に立って平成22年度は収録した古文献の翻刻読解研究を行い,これを『南都仏教』第95号に掲載し,発表した。その目次は以下のとおりである。 (1) 貞慶撰『安養報化』(上人御草)の翻刻読解研究(楠淳證) (2) 貞慶・蔵俊・勝超合冊本『見者居穢土』の翻刻読解研究(蜷川祥美) (3) 蔵俊による天台-乗批判の展開-『法華玄賛文集』八十九の翻刻読解研究を中心として-(新倉和文) (4) 貞慶の「因明四種相違」解釈(I)-『四相違短冊』「法自相相違因」翻刻読解研究-(後藤康夫) このうち(1)は貞慶独特の安養説を明らかにするもので,自らの信仰の確立のため,そして法然浄土教批判という視点より安養通化説を展開した貞慶によって,法相論義「安養報化」に一大転換のあったことを明らかにした。また,その背景として「見者居穢土」の論義展開のあったことも明らかとなった。これが(2)である。(3)は貞慶の法然浄土教批判の背景に天台一乗思想への批判があり,それが蔵俊の影響によるものであること,ならびに蔵俊がいかなる天台一乗思想批判を展開したのかを蔵俊撰『法華玄賛文集』を翻刻読解研究することによって明らかにした。最後の(4)は,こうした貞慶の理論の背景に因明学のあったことをおさえた上で,新資料『四相違短冊』を翻刻読解研究したものである。これによって,既存の活字化資料では不明な点が明らかとなった。 以上のように,本年度は前年度において立てた「貞慶を共通テーマとする研究員全員の論文を一括発表する」方針に即して研究を進め,所期の目的を達成できたものと考えている。
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